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熊本地方裁判所 昭和43年(手ワ)38号 判決 1968年7月09日

主文

被告は原告に対して、金一、〇〇〇、〇〇〇円とこれに対する昭和四二年一〇月二三日から支払ずみにいたるまで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮りに執行することができる。

事実

一  当事者の求める裁判

(原告)

主文一、二項同旨。

(被告)

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二  事実関係

(請求原因)

(一)  被告は振出人名義を「熊本市草葉町四―七、合資会社安心荘、斉藤シズエ」とし、訴外東洋鉄工株式会社を受取人として、つぎの約束手形一通を振出した。

1 金額        一、〇〇〇、〇〇〇円

2 満期        昭和四二年一〇月二三日

3 支払地と振出地   熊本市

4 支払場所      九州相互銀行熊本支店

5 振出日       昭和四二年七月二三日

(二)  右約束手形には、訴外東洋鉄工株式会社から被裏書人を白地とする裏書および原告から訴外商工組合中央金庫に対する裏書の記載があるところ、右商工組合中央金庫は右約束手形を満期に支払場所に呈示した。

(三)  原告は昭和四二年一〇月二四日右商工組合中央金庫に対して右約束手形金一、〇〇〇、〇〇〇円を支払つたうえ、右約束手形を受戻し、手形上の権利を取得した。

(四)  よつて、原告は被告に対して右約束手形金一、〇〇〇、〇〇〇円とこれに対する満期である昭和四二年一〇月二三日から支払ずみにいたるまで手形法所定の年六分の割合による利息の支払を求める。

(請求原因に対する認否)

被告が「熊本市草葉町四―七、合資会社安心荘、斉藤シズエ」名義で原告主張の約束手形を振出したことは認める。しかし、右約束手形の振出人は被告ではなく、斉藤シズエ個人である。

三 証拠関係(省略)

理由

一  被告が訴外東洋鉄工株式会社に対して原告主張の約束手形一通を振出したことは当事者間に争いがない。そこで、右約束手形の振出人が被告であるかについて判断する。

会社などの法人の代表者が法人を代表して約束手形を振出すに当つては、法人名を記載するほか当該法人を代表する者の代表資格とその代表者の署名を要するところ、右代表資格を表示するに際しては「右代表者代表取締役」「右代表者常務取締役」などと記載して代表関係を明瞭に表示することは要せず、約束手形の振出欄に法人を代表する趣旨が認められるような記載があれば足りると解すべきである。そして約束手形の振出人欄に記載されている署名者の住所、地位、勤務先などの肩書を評価してもそれが法人の代表資格の表示なのか、それとも個人の肩書の表示なのか確定できないときは、振出人が法人とも個人とも解される余地があるのであるから、手形取引の安全を保護するため、約束手形の所持人はその選択にしたがい法人に対しても個人に対しても振出人としての責任を追求できるものと解するのが相当である。

これを本件についてみると、被告代表者斉藤シズエが右約束手形を振出すに際して使用した「熊本市草葉町四―七、合資会社安心荘、斉藤シズエ」なる振出名義は成立に争いのない甲第一号証によると他の部分に比較して「安心荘」の部分がやや大きく書かれているので、その振出人は被告であるとも評価できるが、右事実だけでは振出人が被告であるとも、斉藤シズエ個人であるとも認定することができない。

しかして、原告は右約束手形の振出人は被告であると主張しているのであるから、被告は右約束手形の振出人としての責任を免れることはできない。

二 原告主張のその余の事実、すなわち裏書の連続、支払のための呈示および右約束手形の受戻については被告において明かに争わないから、これを自白したものとみなす。

三 右事実によると、約束手形金一、〇〇〇、〇〇〇円とこれに対する満期の日である昭和四二年一〇月二三日から支払ずみにいたるまで手形法所定の年六分の割合による利息の支払を求める原告の請求は理由があるから、認容することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、仮執行の宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

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